キャロリン・ベルトッツィが拓いた生体内クリック反応
キャロリン・ベルトッツィ博士は、生体内で化学反応を起こす「バイオ直交化学」という分野を開拓したことで知られています。この化学は、細胞や生体組織の複雑な環境の中で、他の生体分子と干渉することなく、特定の標的分子だけを選択的に標識・修飾できる革新的な手法です。
従来の化学反応の多くは、高温や特殊な溶媒、あるいは触媒を必要とし、生きた細胞内では毒性を示したり、非特異的な反応を引き起こしたりする課題がありました。ベルトッツィ博士の研究は、こうした制限を克服するため、生命システムに適合する新たな反応経路を模索したものです。
彼女が開発した反応の一つに、環状アルキンを用いた銅フリーのアジド-アルキン付加環化反応があります。この反応では、環の歪みエネルギーが高い環状アルキンが持つ固有の反応性を利用し、銅触媒なしでアジド基と効率良く反応させることが可能です。これにより、細胞毒性を抑えつつ、糖鎖などの生体分子を特異的にラベル化することが実現されました。
バイオ直交化学の登場は、細胞表面の糖鎖の役割解明や、薬剤の標的部位への選択的送達、疾患診断のためのイメージングプローブ開発など、広範な生化学および医学分野に多大な貢献をしています。生命科学の研究に、精密な化学的ツールをもたらした重要な功績です。

