パスツールの酒石酸分割実験:キラリティの発見

ルイ・パスツールによる酒石酸の光学異性体分割実験は、近代有機化学における重要な発見の一つです。19世紀半ば、パスツールは、天然から得られる酒石酸が偏光面を特定の方向に回転させるのに対し、合成された酒石酸は光学的活性を示さないという謎に直面しました。これは、両者が同じ化学組成を持つにもかかわらず異なる挙動を示すことを意味していました。

パスツールはこの謎を解明するため、ラセミ酒石酸アンモニウムナトリウム塩の結晶を詳細に観察しました。彼は、顕微鏡下で左右対称ではない、互いに鏡像関係にある二種類の結晶が存在することを発見したのです。パスツールはこれらの結晶を手作業で丹念に選り分け、それぞれを水に溶解させました。

その結果、一方の溶液は偏光面を右に回転させ、もう一方の溶液は左に回転させることが判明しました。この実験は、分子が原子の配置によって互いに鏡像の関係にありながら重ね合わせることができない構造、すなわちキラリティを持つことを明確に示しました。この発見は、分子の三次元構造がその性質に深く関与することを示す最初の事例であり、立体化学という新しい分野の礎を築いたのです。